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長崎地方裁判所 昭和32年(ワ)30号 判決 1957年12月26日

原告 明石光子

被告 島田寅太

主文

一、被告は、原告に対し、金十八万五千円及び之に対する昭和三十一年九月二日からその支払済に至るまでの年一割八分の割合による金員を支払はなければならない。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、原告が、被告に対し、被告及び訴外島田昭が、連帯して、その債務を負担する約定の下に、原告主張の各日に、夫々、その主張の各金員を、その主張の各約定で、貸付けたことは、当事者に争のないところである。

二、而して、その各弁済期が、孰れも、既に、到来して居ることは、右各約定に照し、明白であるところ、被告等が、原告主張の請求原因第一項の(1)の貸付元金の内金三万五千円、同(2)の貸付元金五万円、同(3)の貸付元金十万円の三口の貸付元金合計金十八万五千円、及び之に対する弁済期到来後たる昭和三十一年九月二日以降の遅延損害金の支払を為して居ないことは、弁論の全趣旨によつて、被告の明かに争はないところであると認められるから、原告は、被告に対し、その支払を求める権利を有する。故に、右貸付元金合計金八万五千円及び之に対する昭和三十一年九月二日からその支払済に至るまでの約定の利率の範囲内たる年一割八分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は、正当である。

三、(イ)原告は、前記(1)の貸付元金十三万円に対し、金九万五千円の内入支払が為された旨主張し、被告は、之を否認して、その事実のあることを争つて居るのであるが、本訴に於ては、その事実の存否についての判断を為す必要がないので、その判断は、之を為さない。

(ロ)本訴に於て、右事実の存否についてその判断を為す必要のない理由は、以下の通りである。即ち、原告主張の右内入支払が為されたと言ふ事実は、所謂先行自白に属するものであるが、元来、先行自白なるものは、相手方に於て、之を援用するか、若くは、之を争はないときに於てのみ、訴訟上、意味のあるものであつて、(この場合には、相手方の主張する事実を自白したことになる、つまり、先行自白の内容となつて居る事実は、相手方に於て、之を主張したことになると共に、その先行自白を為した者に於て、その事実を自白したことになる訳である)、相手方に於て之を争ふ場合には、訴訟上、無意味なものであるから、(この場合に於ては、相手方に於て、その先行自白の内容となつて居る事実を主張して居ないことになるから、それに対する自白なるものは存在しないことになる訳である。従つてその場合の先行自白なるものは、それが存在して居ても、無意味な存在に帰して仕舞ふ訳である)、それが為されて居ても、相手方に於て、それを争ふ限り、それが為されて居ないに等しいものであるところ、本件に於ては、被告が、原告の前記先行自白を争ふこと、前記の通りであるから、その先行自白は、為されて居ないに等しく、従つて、その内容となつて居る前記事実の存否についての判断は、之を為す必要のないものである。

(ハ)尚、原告の為した右先行自白について、右の様に解すると、原告の前記(1)の貸付金に対する金三万五千円及び之に対する遅延損害金の支払請求は、その一部請求であると解せざるを得ないことになるものであるところ、弁論の全趣旨によると、被告にその支払義務のあることは、被告に於て明かに争はないところであると認められること、前記の通りであるから、原告の右請求の正当であることは、勿論であつて、原告の本訴請求中、右の部分に関する請求を正当と認めた理由は、之によるものである。

四、仍て、原告の請求を認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 田中正一)

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